同時通訳に必要な人数は?交代時間は何分が適切か?1人で同時通訳をするメリット、デメリット、今後の傾向を考察してみた【前編】

先日、JACI(日本会議通訳者協会)主催で「ソロ同通」に関するウェビナーが開催されました。ソロ同通とは、「一人で同時通訳をする」ことです。

ウェビナーの内容は主に
「一人で同時通訳をすることで、どんな影響(メリット・デメリット)があるか」
「業界内のソロ同通に関する傾向、動きについて」
というテーマ。フリーランスの通訳者として活動している私にとって興味深く、今後の依頼の請け方にも直結するものでした。

そこで、ウェビナーを通じて私なりに「一人で同時通訳をする」ということについての考察、感想を書きたいと思います。

同時通訳は何人体制でするものなのか?

大前提として、現状では、日本で同時通訳をする場合は、2~3人体制で行うのが一般的です。ざっくり言うと、半日程度の業務であれば2名で、終日の業務だと3名でチームを組んで行う形です。(もちろん例外はあります)

海外の場合は終日案件でも2名体制で回すのが一般的のようです。日本であっても、終日の業務だけど2名体制という問い合わせもゼロではありません。

同時通訳を数人のチーム体制で行う理由

同時通訳は通訳者の認知資源(ざっくりいうと、脳)に対して負荷がとても高い業務なので、継続的に長い時間行うのには無理があります。たとえて言うなら、ずーっと短距離走のスピードを維持して走り続けるようなものです。なので、複数人で交代しながら、休憩しながら行います。

また、パートナーが横にいてくれることで、固有名詞や数字など、短期的に記憶しておくのには負荷が大きいキーワードをメモしてもらったり、資料をスピーカーが読み上げている場合にその部分を指してわかりやすくしてもらったりするなど、通訳品質に直結するようなサポートを受けることができます。

通訳は心理的にプレッシャーがかかる仕事なので、持ち時間をなんとか終えれば交代できる!という気持ちが、たとえて言うなら「15分間の短距離走」を走りきるためのモチベーションになります。

しかし、パートナーがいなければ、数字や固有名詞を落としてしまったり、手元の資料を活用できず耳から入ってくる情報だけを頼りに訳さなければいけない状況になってしまったりして、訳の質が下がりかねない、ということになります。

現在のようにブースに入って行う同時通訳が一般的になったきっかけが第2次世界大戦の戦犯に対するニュルンベルグ裁判での同時通訳ですが、その時からすでにチーム体制が組まれていました。

同時通訳は一人何分までやるものなのか?

私が日本で経験した限り、1回あたりの担当時間は10~15分程度です。欧州のヨーロッパ系言語の会議通訳者の話を聞くと、20~30分など、もう少し長めの傾向があるようです。

時間と同時にスピーカーのしゃべっている内容のキリのいいところで交代するやり方が一般的になっていると感じます。

一人で同時通訳をやることにはどのような負担があるのか?

前述のとおり、同時通訳は認知資源に大きな負荷がかかる作業なので、ずっと一人でやっていると単純に疲労感が増しますし、集中力が落ちてきてしまいます。当然、通訳の品質も劣化してしまいます。

また、一人でやり切らなければいけないというプレッシャーが、通訳のパフォーマンスにマイナスに働くことも考えられます。

後述するようなオンラインでの遠隔同時通訳の場合は、通訳者のインターネット接続に不具合が生じた場合、通訳サービスが完全に途絶えるリスクも抱えることになります。

コロナ加で変化してきた同時通訳への要望

さて、2020年からコロナ禍となり、通訳業界も大きな影響を受けました。その一つとして、会議やイベントがオンラインに場を移し、対面の場合よりも短時間になりました。同時に、Zoomのようなオンライン会議のプラットフォームに同時通訳機能が付きました。また、Zoomのようなオンライン会議のプラットフォームと組み合わせて使う遠隔同時通訳のプラットフォームも多数デビューしました。一気に「遠隔同時通訳」が通訳業界内でメジャーな存在になったのです。

世間ではコロナのせいで景気後退となり、通訳にそれほどコストがかけられないなかで依頼をするケースが増加。結果として、クライアントから「1時間の案件だから、一人でできない?」という問い合わせが増えました。つまり、これまで2名体制で手配していた通訳を1名体制にすることで、実質的な値下げとなっているのです。

ちなみに、特にこのようにはっきりと「一人でできないか」と聞いてくるのは海外からの問い合わせに多い印象です。

変化した要望に対して通訳者はどんな対応をしているか?

正直なところ、あまりはっきりしていないというのが私の印象です。通訳者によるし、エージェントにもよると思います。

ただ、日本のエージェントからくる問い合わせを見る限りでは、「ソロ同通でお願いします」という依頼はほとんどないと思われます。

ウェビナーの研究結果から、一人同時通訳の対応を考えてみる

ここまで書いたように、同時通訳は複数で行うことが通例となっています。それは一人にかかる負担などを考えれば、通訳が適切になされるためには必要です。

しかし、交代の時間や、チームの人数などはエージェントや現場の要望などによりさまざまで、はっきりとした基準、根拠がないというのが現状という問題が見えてきました。

冒頭で紹介したウェビナーは、そんな問題について前向きに考えるための研究成果を教えてくれました。とても参考になり、いままで「なんとなく」で対応していたことに、一つの答えを提示してくれる大変有意義なものでした。

次の投稿で、私が特に納得し、今後に生かしたいと思ったことをピックアップしてご紹介します。