通訳案件の事例紹介:フローレンス様(直請案件)

みなさんこんにちは。東京で英日の会議通訳をしている山本みどりです。

私が通訳案件をいただく場合、「エージェント経由」でのご依頼のほかに、「私に直接依頼していただく(直請案件)」というケースもあります。

今回は通訳関係の事例として「認定NPO法人フローレンス様(直請案件)」をご紹介します。

今回通訳をご依頼いただいたイベントについて、依頼主のフローレンス様もブログ記事を書かれています。

直接依頼をいただいたきっかけ

きっかけは、そこで働いている友人に声をかけられたことでした。私は何年も前に、NPOでボランティア活動をしていたことがあります。たまたまそのNPOでの仲間が集まって同窓会のようなことをする機会があり、何年ぶりかに彼女とも再会したのです。その際、友人が現在フローレンス様で働いており、もしかしたら通訳のニーズがあるかもしれない、と話していました。また過去にそのNPOで外国人スピーカーをよんで講演を開催したことがあり、その際に私が通訳として入ったこともありました。

依頼内容

フローレンス様のブログにある通り、今回の通訳案件は香港大学の学生22名に社会起業家としての経験をプレゼン、質疑応答のセッションをするというイベントでした。

香港大学の学生さんは英語を話しますが、念のため事前にYoutubeで広東語なまりの英語についての動画を2~3本観ておきました。実際には、学生さんたちはみなさん訛りの少ない英語を話されていたので、聞き取りやすかったです。

が、通訳準備の基本として、スピーカーの出身地の訛りをYoutubeで調べて、耳を鳴らしておくというのは常にやっています。「やっておいてよかった!」と思うことが多いですし、その度に「いい時代になった!」とテクノロジーの発展に感謝しています(笑)

プレゼンは、障害児保育園ヘレンの立ち上げのことを大きく取り上げていたため、資料に出てきた言葉はしっかり押さえておくことはもちろん、駒崎さんの最近の著書『政策起業家』も読み込んでいきました。駒崎さんの講演やトーク動画は数多くYoutubeに上がっているので、それもくまなくチェックし、話されている内容と、話し方についても準備をして臨みました。周辺知識としては、日本の保育園制度のことも熟知しておく必要がありました。

事前準備・確認や提案をしたこと

通訳形態の確認と提案

一番最初にフローレンス様側の担当チームと打ち合わせをした際、通訳者はリモートで入ってもらえればという話でした。

しかし、セッション自体は対面で行われるということを考えると、通訳者一人だけが別の場所から入ると場の雰囲気が分かりづらいし、会場との一体感も作りにくい。また、より音質の高いインプット音声を得るためにも、通訳者が直接会場にいた方が通訳の品質が向上すると思い、こちらから現場に赴くことを提案しました。

プレゼン資料の翻訳も必要になった

プレゼン資料は日本語で制作されるということで英訳も依頼されました。

30ページ弱ぐらいのパワポ資料でした。

翻訳作業は英語ネイティブのパートナー翻訳者に依頼をし、私は校正とプロジェクト管理をしました。主な用語については過去に使った訳語のリスト資料をいただいたのでそれを参考にしました。

翻訳の校正という形で資料にも触れたことで、本番の予習にもなりました。内容としては子どもの保育が中心だったのですが、日本の保育園と英語圏の保育園では文化が違うので、そのまま直訳しても伝わらない部分もあり、パートナー翻訳者と確認しながら仕上げていきました。

先方との打ち合わせはズームで効率的に行った

香港大学とフローレンス様のご担当者間の事前打ち合わせに、私も通訳者として入りました。

珍しいことだとは思いますが、この打ち合わせの日程調整自体に、通訳者の私の都合も考慮していただけました。

初めて顔を合わせて話をするという機会でしたが、とても和やかに進みました。通訳が入ったことで、細かいことまでしっかりと確認できたということでフローレンス様にはとても喜んでいただけました。

香港大学からの説明は、固有名詞やはじめて聞く話などが出てきて、自分の聞き取りに自信が持てないこともありました。そういったときは落ち着いて聞き直すことで確認をしました。

いざ当日!

事前にお願いをして、現場に通訳者のための机とマイクをセットしていただきました。

本番が始まると、スピーカーや聴衆とアイコンタクトを取りながら逐次通訳を進めていきました。

40分程度プレゼンの後質疑応答があり、オンラインで参加している学生からも質問がありました。口頭で質問がなされ、またチャットでも同じ内容が入力されていて、そのスマートフォンを見せて頂けたので、画面を見ながらその場で訳して行きました。

合計1時間のセッションが終わった後、ご担当の方から「現場に来てもらって良かった」の声をいただきました。

私としても現場に入ることで、スピーカーの様子を確認し通訳が入るタイミングを正確に取ることができたし、現場の温度感に合わせた通訳をすることでセッションを盛り上げることに貢献できたと思います。香港大学の学生さんたちが前のめりに話を聞いてくださっていたのも間近で見ていたからこそわかりましたし、そのこと自体が私にとってのエネルギーになりました。また、スピーカーの駒崎さんは留学経験がおありで英語がおできになるので、質問をすべて訳す必要がないケースも多く、どこまで省いてどこまで訳すのかという塩梅も現場にいたからこそキャッチでき、セッションの時間を最大限生かすことにつながりました。

なお、今回の案件は1名体制で、スピーカーが2~3文喋ったら止まって通訳が入る「逐次通訳」というやり方で通訳しました。

無事に終えてみて

香港大学の視察受け入れというプロジェクトにガッツリと関わる機会をいただき、リモートではなく現場に赴くという提案をお客様に対して行い、受け入れてもらえたことは私にとって一つの経験値になりました。

フローレンス様が、通訳者を入れてセッションを開催するということにとても前向きに捉えてくださっていたのがありがたかったです。