プロ会議通訳者として長く働くための心構え。エンパワメント部の役割について解説します

みなさんこんにちは。

東京で英日の会議通訳をしている山本みどりです。

突然ですが、今回は、日本会議通訳者協会(JACI)の初の公式サブグループとして発足したエンパワメント部について、発足人としての思いを綴ります。

通訳は体力も気力も使う仕事で、それが現実。だけど……

通訳は、いわゆる「マインドスポーツ」の一つだと思います。一定の時間通訳をした後は、まさに「脳に汗をかいた」と言える感覚があります。ほどほどならば心地よい疲労感です。

同時に、通訳業はサービス業でもあります。お客様、エージェントや、通訳パートナーなど、気を遣う相手は多方面にわたります。

ですので、通訳は体力も気力も要する仕事です。繁忙期ともなれば、どうしても対応すべき本来業務の件数も増え、また問い合わせメールの返信などの間接業務も増え、意思決定の数も増え、無理を重ねがち。

これまではそんな現実に対しても、通訳業界内では「プロならば体調管理ができて当たり前」という一言で片づけられてきました。

でも、この先何年も(人によっては何十年も)通訳者として働き続けたいのなら、つぶれないでやっていける方法を考えなければいけないと思っています。

問題提起①:通訳スキルという職人スキルだけで、いいんですか?

特にフリーランスとしてやっていくためには、「職人」としての高い通訳スキルと維持するという面とともに、「事業主」「経営者」として、自分のビジネスの手綱を握って自分で意思決定をすることが必要です。

しかし、通訳業界においては、前者にばかり目が向いてしまっている人が多いのかもしれません。

また、「経営者」として積極的に「自分で決める」というマインドがないため、言われたとおりに業務をこなすだけで、不満があっても取引先(多くの場合はエージェント)の愚痴で終わってしまう……という場面もよくあるのかもしれません。

コロナ禍で遠隔通訳が一気に広まりましたが、お客様側ではまだまだ遠隔通訳を有効活用しきれていないのが現実です。

そんな時、例えば遠隔通訳に精通している通訳者が少し気を利かせてフィードバックしたりアドバイスをしたりすることで、オンライン会議やウェビナーの難局を乗り切ることにもなり得ます。

しかし、積極的に場の成功を目指すというマインドがないと、そこまで「口を出す」ことに躊躇してしまい、プラスアルファの価値を提供できないまま終わってしまうでしょう。

問題提起②:悩みや不安、一人で抱えていませんか?

フリーランスで仕事をしている=基本的には一匹狼です。悩みがあっても話す場がなく、一人で抱えてしまうこともよくあります。

例えば、前述したような持続可能な働き方について、というのもその一つ。

忙しいことが礼賛される風潮のなかでは、「つぶれないために業務量をセーブしたいと思っていますが、皆さんどうですか?」とはあまり言い出しにくいのかもしれません。

もう一つ大きな悩みなのが、自信のなさ。「インポスター症候群」とも言います。

インポスター症候群とは、私なりの解釈で言うと……

慢性的に自分に自信が持てなくて、いつか化けの皮がはがれて自分には能力がないことがばれてしまうのではないか?と恐れてしまう状態、自分にダメ出しをし続けてしまう状態

……のことです。書いていて思いましたが、このような心の声がいつも聞こえてきていたら、健康にいいわけがありませんよね(苦笑)。

インポスター症候群に悩まされているのは私のような通訳者だけでなく、社会的に大きな成功を収めた人のなかにもたくさんいます。

俳優のエマ・ワトソンや、歌手・俳優のジェニファー・ロペスも、インポスター症候群に苦しんだそうです。

エンパワメント部、誕生!

なぜ今回はこんな現実的で夢のない、重たいテーマなのか?と言いますと……

日本会議通訳者協会初の公式サブグループ、「エンパワメント部」が4月に発足しました。

先日はオンラインでキックオフイベントを開催。発起人3人を含む、7人のスピーカーがライトニングトークを展開しました。

そのなかでも、仲田紀子さんのトークにあったインポスター症候群の話が特に印象に残ったのです。

インポスター症候群は、プロの通訳者としては避けて通れない問題ですが、全くと言っていいほど話題にならないし、誰も話したがらないテーマでもあります。

とはいえ、仲間の通訳者のためにも、また未来の通訳者を育てる観点からも、正直に現実を語る必要があると感じたため、この記事を書いています。

エンパワメント部とは

エンパワメント部は、自身の通訳ビジネスにオーナーシップを持ち、事業の成長や業界の発展を考える通訳者が集うグループです。私は発起人3人のうちの1人です。

きっかけは、巽美穂さん菱田奈津紀さんとともに行った、年末の女子会、もとい座談会でした。

エンパワメント部では、上記のような様々な課題を話し合える安全な場を作っていきたいです。

まずは夏の日本通訳翻訳フォーラムで豪華スピーカーに登壇していただく予定です。

乞うご期待!