こんにちは。東京でテック系会議通訳をしている山本みどりです。
年末のオンライン座談会で、「英語から日本語に訳すのと、日本語から英語に訳すの、どちらがやりやすい?」という質問がありました。
私の場合「日本語から英語」がやりやすいです。
しかし、他のお二人の通訳者は、「英語→日本語」でした。その場では私だけが「日本語から英語」だったのです。
もしかすると、多くの日本語ネイティブの通訳者は「英→日(外国語→母国語)」が自然でやりやすいと感じるのかもしれませんね。
逆に言うと、「日→英」に苦手意識だったり、やりづらさを感じている方が多いのかな?とも思いました。
ということで、今回は「日→英が苦手」な人のために、「日→英」が得意な私からのアドバイス……というと大げさですが、私が「日→英」がやりやすい理由をテーマにお話しします。
「日→英」通訳がやりやすい理由
さて、なぜ私の場合「日→英」の方がやりやすいのか?その理由を色々考えてみたので、ご紹介します。
【理由1】外国人のために訳すことの方が多かった
通訳の王道(例えば国連や欧州連合での同時通訳など。歴史上最初に同時通訳が使われたのは、第二次世界大戦後のニュルンベルグ裁判ですが、その時以来のアプローチです)では、「外国語→母国語」だとされています。
日本人であれば「外国語→日本語」が王道ということですね。
とはいっても、ビジネスの場では、同じ通訳者が双方向に訳すことが多いのが実情です。
私自身の経験では、「大勢の日本人の中に外国人が数人」という環境で、「外国人のために訳す」ことの方が多かったです。そのため、自分の英語の出来はさておき、「日→英」の方が楽な気持ちというか、むしろ普通の感覚で臨めます。
【理由2】英語を話すのが好き
私が「日→英」の方がやりやすい理由はもう一つあります。それは
「英語をしゃべるのが好き」
ということです。
そんなこと?と思うかもしれませんが、やっぱりこれが私のなかでは「やりやすさ」の原点かな?と思います。
自分の英訳がものすごく上手だとは思っていません。英語ネイティブの方々の英訳は聞いていてうっとりしちゃうときもあるほどですが、私の英語はそんな素晴らしいものではありません。
そんな英語ではありますが、自分が訳したことで、会議の参加者が議論に前のめりになって熱心に話してくれる姿を見たり、「山本さんの通訳はとても分かりやすかったよ」とうれしい言葉を聞いたりすると、とてもやりがいを感じます。自分は人と人のつながりが好きなんだと思います。
王道派の意見
さて、それでは「外国語→日本語」の方がやりやすいという「王道派」の意見も聞いてみましょう。
通訳者の座談会では、
「日本語は母国語なので、アウトプットをより洗練させることができる」
という意見がありました。
確かにそれはその通りですね。より練った表現を使うこともできるし、より自信をもってアウトプットを出せるというのは確かにあるでしょう。
しかし私の場合は、それよりも「インプットが聞き取れるかどうかわからない!」という恐怖の方を強く感じてしまいます。
「日→英」で訳すのを得意にするのは?
「日→英」が苦手なのはなぜか?それには、いくつか原因があると思います。私なりの「得意にするためのトレーニング」をご紹介します。
インプットの理解と整理
一つめは、「インプットの理解」「インプットの整理」です。
「日→英」が苦手な人は、まずインプットの理解と整理が不足しているのかもしれません。
日本語は英語と違って、要点が不明瞭なままダラダラ流れていくしゃべり方をしやすいです。
また、主語を省略することもよくあります。インプットを漫然と聞いているだけでは、話者が言いたいことの構造を意識することは難しいかもしれません。
おススメトレーニング法
通訳学校でもよく言われることですが、そんな場合はまず「日→日」をするといいでしょう。
つまり「話者のそのままの日本語」から「言葉や構造を補った日本語」へと変換し、訳しやすくするのです。
そのうえで英語に訳せば、聞き手にもわかりやすいアウトプットになるでしょう。
日本語から英語への「変換ハードル」
二つめに、「日→英」が苦手なケースで考えられるのは、日本語から英語への返還に「よっこらしょ」という変換のハードルがあるケースです。
変換のハードルとは、
- 単語レベルで英語に変換するのに時間がかかりすぎる(単語力不足)
- 文章レベルで英語に変換するのに時間がかかりすぎる(英作文力不足)
- 接続詞を効果的に使って英語の流れを整理することができていない(英語の構造をものにできていない)
などの問題により、英語に訳すのに時間がかかりすぎてしまうことを指しています。本番でこのようになってしまうと、通訳が「時間泥棒」になってしまい、参加者に迷惑をかけてしまいます。
おすすめトレーニング方法
これには「訳す」ことの【筋トレ的な練習】と、【長期的に英語のインプットをし続ける】の2つの方法を併用するのが効果的でしょう。
【筋トレ的な練習】とは、日本語から英語へ迅速に訳す練習です。日→英変換の反射神経を鍛える訓練と言ってもいいでしょう。
単語・単文単位から天声人語のようなある程度まとまった分量まで、個人のレベルに合わせて日本語から英語に訳す練習をします。通訳トレーニングとして行うのなら、自分の音声アウトプットを録音して後からチェックするのも有効です。なるべく対訳のあるものを教材にすることをおススメします。(もちろん英語でのアウトプットは一通りとは限りませんが)
朝日新聞の天声人語は、ウェブサイトで英訳が確認できるので、通訳トレーニングにも向いています。
【長期的に英語のインプットをし続けるトレーニング】とは、英語をとにかく大量に聞いたり読んだりすること、それを毎日続けることです。この場合は日本語訳は不要です。多少わからない語彙や表現があっても構いませんが、全体的な意味が8割くらいは理解できるものを素材に選ぶのがポイントです。
長期的にトレーニングする方法として、英語のPodcastを聞くのがおススメです。
私自身、いくつかの番組を何年も聞いています。常にすべてを漏れなく聞いているわけではなく、たまにしか聞かないものもあります。
毎日聞くのなら、なるべく5~10分という短めの番組にして、毎日実行できるようにするのが良いでしょう。
山本が定期的に聞いている番組
- FT News Briefing
- CyberWire Daily
- Grumpy Old Geeks
- No Stupid Questions
- Smart Habits for Translators
- This American Life
以上、私が「日→英」がやりやすい理由をご紹介しました。苦手な方、コツを知りたい方のご参考になればうれしいです。