通訳エージェントの選び方

初めて通訳者を雇う企業のご担当者にとって、「どこに依頼すればいいのか」「信頼できる通訳者をどう見極めるのか」は大きな課題ではないでしょうか?

実際、通訳の質によって、会議や商談の結果が左右されることも少なくありません。

本記事では、大手通訳エージェントでの業務経験を数多く積み、現在は個人でも通訳依頼を受けている私が「エージェントからブティック型までの幅広い経験」をもとに大手・中堅・ブティック型といった通訳エージェントを種類別に比較しながら、最適な通訳会社の選び方をわかりやすく解説していきます。

【基本編】通訳エージェントとは?

通訳エージェントとは、お客様の依頼に応じて、適切な通訳者をマッチングし、派遣してくれる仲介サービスの企業です。

「いつ、どこで、何語で」「どんな場で」など、案件の詳細に合わせて、条件に合う通訳者を提案してくれます。

直接通訳者本人に依頼する方法もありますが、エージェントを活用することで、言語力だけでなく、専門知識・業界経験・対応力を含めて総合的にマッチングしてもらえるメリットがあります。

大手とは、数百人から1000〜2000人レベルで登録通訳者を抱えるエージェント。業界内外で名が知れ渡っており、系列に通訳学校を持っているグループもあります。

一方、ブティック型は1人〜数人で運営している通訳会社で、現役の通訳者が経営している場合もあります。

その中間の規模を、ここでは中堅と呼んでいます。

なぜ通訳エージェントを使うの?エージェントのメリット

通訳者を自力で探す場合、実力や相性を判断するのが難しいという問題があります。

通訳エージェントを使えば、過去の実績や得意分野、対応力などを加味した上で、最適な通訳者を選んでもらえるという利点があります。

さらに、交渉やスケジュール調整、トラブル時のサポートまで行ってくれる点も、エージェントを使う安心材料です。

通訳エージェントと通訳派遣はどう違う?

一見似ている「通訳エージェント」と「通訳派遣」ですが、その仕組みには明確な違いがあります。

通訳エージェントの場合、半日や1日単位の依頼に合う人材をマッチングしてくれます。この場合の雇用形態は「請負」です。

一方、通訳派遣、いわゆる「派遣社員」の場合は、通常は最低でも1か月以上の中長期的な通訳の依頼に合う人材をマッチングしてくれます。料金体系は時給単位となります。

その他、ここでは割愛しますが、派遣の場合は社会保険や福利厚生なども含まれてきます。

案件によってはエントリーレベルの通訳者でも十分に対応可能なこともあるので、単価がそれほど高くない通訳者に依頼することもできます。

そのため、自社のニーズが短期なのか長期なのか、どの程度のレベルの通訳者が必要なのか、というニーズにあった形態を見極めることが重要です。

個人の通訳者を探す場合との違い

個人通訳者との直接契約に比べて、エージェントを通すことで動員能力やトラブル対応に優れているというメリットがあります。

例えばイベントで30人くらいの大量動員が必要な場合は、個人通訳者ではまず無理でしょう。また、依頼してあった通訳者に急遽トラブルが発生して現場に行けなくなった、という場合も、エージェントなら直前でも代わりの通訳者を見つけ出して派遣することができます。

通訳者のパフォーマンスにクレームが発生した場合も、エージェントならそのフィードバックを踏まえて次回から別の人選をすることが可能です。

一方で、個人通訳者を雇うメリットもあります。

通訳者本人とやり取りすることができるので、情報が確実に、スピーディに伝わります。また、基本的には同じ通訳者が継続して対応することになるので、前回までのよく経緯を把握、理解しており、その理解に基づいてより正確な訳を出すことができます。

依頼する企業様にとっても、エージェントの場合は毎回同じ通訳者にお願いできるかどうかは確証がありませんが、個人通訳者なら、案件を引き受けてもらうことができれば、その通訳者を確実に起用できます。

通訳エージェントの主要3タイプと特徴

通訳エージェントとひと口に言っても、規模や得意分野によってその特徴は大きく異なります。

ここでは、通訳エージェントの代表的な3つのタイプ「大手」「中堅」「ブティック型」について、それぞれの特徴やメリット・デメリットを私の経験を交えて紹介します。自身のニーズに合ったタイプを選ぶ参考にしてください。

大手通訳エージェント

大手は全国対応・複数言語に強く、大規模案件・大量動員が必要な企業に向いています。一部上場企業との取引が多いので、大手の安心感もあるでしょう。

ただし、登録通訳者数が多いため、どうしても通訳者のスキルにばらつきがあることもあります。

また、案件を開拓する営業担当と、通訳者を選ぶ人選担当者と、案件そのものを担当するコーディネーターがそれぞれ異なっている会社もあり、依頼企業と通訳者のコミュニケーションの間に何人か人が入り、時間がかかったり、内容が多少変わってしまったりする可能性があります。

主な特徴:

  • 豊富な実績と案件数
  • 同時通訳など高難度案件にも対応
  • 通訳者の派遣だけでなく、イベント全体の運営も対応可能なことも。その場合、会場手配、機材手配から通訳者手配までワンストップで対応
  • 通訳以外の翻訳や人材派遣など、総合的なサービスも提供

メリット:

  • 信頼性が高く、コンプライアンス対応もしっかりしている
  • 通訳者の質が一定以上で安定している
  • トラブル対応やサポート体制が整っている

デメリット:

  • 担当者とのやりとりがやや形式的だったり煩雑な場合も
  • フレキシブルな対応はやや苦手

中堅エージェント

特定分野に強みを持つところも多く、相談しやすいのが魅力です。

ただ、登録通訳者の数は大手ほど多くないので、キャパシティ的に対応できないこともあるでしょう。

主な特徴:

  • 得意分野に特化していることが多い
  • 中小企業や個人からの依頼も柔軟に対応

メリット:

  • 要望に応じたカスタマイズがしやすい
  • 担当者と密にコミュニケーションが取れる
  • 案件に応じて柔軟な対応が期待できる

デメリット:

  • 通訳者の数は限られる場合も
  • ごく一部の分野では対応が難しいことも

ブティック型エージェント

医学、法務、金融など、分野に特化していることが多く、現役通訳者が運営していることもあります。そのため依頼内容を正確に理解し、その分野の専門性を持つ通訳者を派遣してくれる可能性が高いでしょう。

通訳者が経営するエージェントの場合は、登録通訳者の水準が高くなる傾向があります。というのも、同業の通訳者だからこそ、厳しい目線で通訳者のスキルを評価するからです。

一方、対応分野が限られていることや、登録通訳者が大手ほど多くない、という点もあります。

主な特徴:

  • 通訳者の顔が見える運営スタイル
  • ハイエンドなクライアントに支持されている
  • 高度な専門分野に強い傾向

メリット:

  • 通訳者と直接打ち合わせができるケースも
  • 要望を細かく反映してくれる
  • 柔軟かつ丁寧な対応

デメリット:

  • 日程が合わないと依頼できないことも
  • サポート体制やバックアップ要員は限定的な場合が多い

費用感ってぶっちゃけどうなの?

上記主要3タイプの説明で、タイプごとの費用感については述べておりません。というのも、ケースバイケースだからです。大手だから安い、ブティックだから高い、という一般化できる法則はなく、各社が設定している通訳者のランクによって単価が設定されています。こればかりは「見積もりをとってみないとわからない」ものなのです。

通訳エージェントを選ぶ時のポイント

「どんな業界経験があるか」「希望言語に対応しているか」「料金は明確か」などに加えて、問い合わせ時の対応スピードや、ヒアリングの丁寧さなど、実際にやりとりしてみることが判断材料になります。

後悔しないために、表面的な価格や知名度だけでなく、自社のニーズに合っているかをよく確認することが大切です。

通訳者とエージェントの舞台裏と活用のヒントを教えます

最後に、通訳エージェントに対して、通訳者はどんなことをしているのか、その他通訳エージェント活用のためのヒントなど、舞台裏的なこともお伝えしましょう。

実績表提出

通訳者は、これまでの実績をまとめた「実績表」を定期的にエージェントに提出し、実績をアピールしています。

また、案件の照会時に、「XX業界の経験がありましたら、具体的に教えてください」と要請があることもあり、その際は個別にその業界の実績を抜粋して伝えています。

このような形で、通訳者はエージェントに最新の実績状況を共有しています。

指名してみよう

依頼企業は通訳エージェントに対して、通訳者の指名をすることができます。指名したからと言ってその通訳者がアサインされるかどうかは確実ではありませんが、指名が入ると、エージェントはまず指名通訳者に打診をします。

もし「次回も起用したい」という通訳者に当たった場合は、ぜひ指名してみてください。

繁忙期のご依頼はお早めに

2〜3月末、6月、8月末〜12月中旬は通訳業界の繁忙期です。特に秋が忙しい。この時期になると、いくら大手であっても混み合う日は「手配できません」という日が出てきてしまいます。

通訳者が必要だと判明したら、なるべく早くにご依頼されることをオススメします。