日本語に訳しにくい英語表現: “thrive”の意味と使い方

東京で日英会議通訳をしている山本みどりです。

会議通訳をしていると「訳しにくい・ニュアンスが伝えにくい」と感じる単語や表現が出てきます。

そんな訳しにくい英語表現を、会議通訳・商談通訳の経験から解説します。

今回は、日本語に訳しにくい英語、 “thrive”を取り上げたいと思います。

“thrive” “thrive on”の訳し方

Netflixで『Inside Bill’s Brain』という、マイクロソフト共同創業者で慈善活動家のビル・ゲイツ氏をとりあげたドキュメンタリー番組があります。そのなかで、妻のメリンダさんが、夫のことを評して、

Bill can deal with a lot of complexity. And he likes complexity and he thrives on complexity.

Inside Bill’s Brain

と言う場面があります。

字幕では「ビルは複雑に対処できる。複雑が好きで、複雑を生きがいにしている」と訳してありました。

英語では、このように “thrive on”という熟語でもよくつかわれます。

単語 “thrive”の意味・使い方

“thrive”そのものの意味は、

〈人・国・産業などが〉栄える、繁栄する;〈人・事業などが〉成功する;〈人が〉金持ちになる

小学館 ランダムハウス英和大辞典

です。

熟語 “thrive on”の意味・使い方

“thrive on”という熟語を調べてみると、

【辞書1  Macmillan English Dictionary for Advanced Learners】
意味:to become successful or happy in a particular situation, especially one that other people would not enjoy
例:Some couple thrive on conflict.

Macmillan English Dictionary for Advanced Learners

訳すとしたら、「ケンカが楽しいカップルもいる」くらいの感じでしょうか。

【辞書2 ビジネス技術実用英語大辞典V6】                                        意味:〈人、動物が〉よく[すくすくと]育つ、生き生きとやっていく
例:Babies thrive on physical affection. 赤ん坊は、スキンシップによってすくすく育つ

ビジネス技術実用英語大辞典V6

【辞書3  Oxford Advanced Learner’s Dictionary】
意味:to enjoy something or be successful at something, especially something that other people would not like
例:He thrives on hard work.

Oxford Advanced Learner’s Dictionary

辞書3のOxford Advanced Learner’s Dictionaryの説明にあるように、「ほかの人は好まないようなことを楽しむ」という意味合いもあるんですね。

英和辞典でニュアンスが分かりにくいときは英英辞典を使う

英和辞書の日本語を見て「意味がよくわからない」「ニュアンスが分からない」と言う場合、英英辞典を使うのがおススメです。異なる複数の英英辞典が参照できればなおいいです。
英英辞典は、英和辞典よりも説明がより具体的で細かいです。用法も充実していますし、例文も豊富です。

私が個人的に気に入っているのはMacmillan English Dictionary for Advanced LearnersやCollins Cobuild Advanced Learner’s Dictionaryです。iPhoneにはOxford Advanced Learner’s Dictionaryがアプリで入っています。

“thrive”を訳すのが難しい理由

個人的には、上記のように「繁栄する」という辞書の訳語に長らく引きずられて、thriveの語感をうまくつかめずにいました。”thrive”に対する定義が「繁栄する」という言葉だけだと、とても堅いイメージを持ってしまいます。

こうなってしまった一番の原因は、この単語を使った例文に十分に触れてこなかったこと。また、仮に触れていても辞書での確認を怠ってきたことです。つまりインプット不足です。

しかし多様な例文に触れていくことで、”thrive”の主語には「企業」や「国」「成功した大物」だけでなく、「カップル」や「赤ちゃん」が来てもいいんだとわかりました。そこで、「thrive=生き生き、キラキラ、のびのび」というふわっとしたイメージを自分なりに持つことができるようになったのです。

会議通訳での活用事例

“thrive”を日本語に訳した例

例えば、メリンダさんの発言例にもあったように、人事評価の際に使うことができます。

He thrives on challenging deals.
彼は困難な案件になると生き生きしている

今回は、訳しにくい英熟語thrive onを取り上げてみました。字面で日本語訳を考えるよりも、「生き生き、キラキラしている」様子をイメージして文脈ごとに最適な訳語をあてるのとよさそうと思いました。