こんにちは。東京を拠点にしている日英会議通訳の山本みどりです。
先日、ヨーロッパのエージェントの仕事を請け負い、無事通訳料金が支払われたのを確認しました。今回はそんな海外とエージェントとの取引について、どうやって始めたら良いか、注意点は?など解説していきます。
なぜ今、海外の通訳エージェントなのか?
そもそも、日本在住の通訳者は日本のエージェントからしか仕事を請け負うことができないという固定観念がありませんか?
インターネットやメールがある現代、海外から仕事を請け負うことも可能です。
海外エージェントと取引することで、外貨で稼ぐことができます。円安が進んだ現在、円以外のドルやユーロで稼ぐことは大きな収入アップにつながります。
もう一つはリスク分散だと思っています。日本のエージェントだけではなく、海外にも取引先を持つことは、取引先の多様化につながり、リスク分散にもなるのです。
海外の通訳エージェントとは?
日本に通訳エージェントが存在するように、海外にもエンドクライアントの要請を受けて通訳者を探し、マッチングし、手配をする業者が存在します。それが海外の通訳エージェントです。
例えば、アメリカの企業が日本の取引先との商談のために通訳を探している。その際、アメリカ企業はアメリカの通訳エージェントに依頼します。そして、その通訳エージェントは日本に住んでいる通訳者に直接依頼をする…というケースが想定されます。
海外の通訳エージェントではどのような依頼があるの?
会議、インタビュー、研修などなど…、日本の通訳エージェントと同じような依頼があります。
むしろ、海外エージェントだからといって特殊な依頼だったり、通訳者として求められるものが大きく異なることはありません。もちろん、慣例や様式などの違いはあるので、そこだけは把握しておく必要(※後述します)がありますが、通訳者として求められるスキルは同じです。
通訳者が海外市場に出るメリット(外貨獲得・高レート相場)
冒頭に書いたように、外貨で稼ぐことができるというのが大きなメリットですが、全体的にレート相場が日本市場よりも高いこともポイントです。
海外では通訳は専門スキルとして高く評価されています。また、日本ではまだまだマイナーですが、海外では通訳・翻訳を大学院で学ぶこともメジャーなキャリアパスとされており、通訳に関する修士・博士を持っていればレートにプレミアムを上乗せすることも十分可能と言われています。
このように、海外では通訳者は高度な専門知識を持つプロフェッショナルとしての立場が確立されています。そのため、専門職としての発言や権利が尊重される傾向にあります。
想定されるデメリットとリスク
とはいえ、文化の違いのある海外とのやりとりなので、慣習や手続き様式などの違いはもちろんあります。
想定されるデメリットやリスクをしっかり把握しておかなければいけません。早速みていきましょう!
やり取りに時差がある
アジア圏のエージェントであればそれほど大きな問題にはなりませんが、ヨーロッパやアメリカのエージェントだと時差がやり取りに響いてきます。ヨーロッパの場合は日本の夕方くらいから営業開始となるので、ようやく1日が終わった〜!…とほっと息をつく間もなく、海外エージェントとのメールのやり取りをしなければなりません。
特に初回問い合わせから案件受注まではスピードが重要になるため(複数の通訳者に一斉に打診していることが多いため)、メールのレスポンスが気になって夜も落ち着かない…ということもあります。
コーディネーターが案件の内容を熟知していないことがある
日本のエージェントでは考えられませんが、海外の場合「コーディネーターが案件の内容をわかっていない」ということがあります。これは海外ならではの文化・仕事のやり方の違い?なのかなと思います。
というのも、通訳者を見つけてくる担当者とエンドクライアントとのやり取りをする担当者が異なることが多く、また働いている場所もお互いに違う国だったりします。
そのため、通訳者とやり取りをする前者の担当者はとにかく通訳者を見つけてくればいい、あとはエンドクライアント担当に繋げばいい、という感じで、あまり現場のことをわかっていない場合があります。
私が先日担当したリモート案件では、当初Teams同通と聞いていました。あまりTeams1回線で同通をするケースは経験がなかったため、本当なのか?よくやるように2回線用意しなくていいのか?と問い合わせをしていましたが、当日まで回答はなし。そして当日蓋を開けてみたら、Teamsミーティングに同時通訳設定はなされておらず、逐次通訳で対応しました。日本の場合、オンライン会議の冒頭のみエージェントの担当者が参加して、手取り足取りクライアントの同時通訳設定を手伝ってあげる…というのがよくある光景なのですが、海外の場合はほぼ期待できないと言っていいでしょう。
このように、日本ではあたり前のことも海外では無いことがあるので、日本の感覚で「それは当然のことでしょう」と思うことも、しっかりと事前確認をするマインドが大切です。
自分で作業することや事前準備が多い
後述しますが、まずはエージェントの取引先としての信頼度を調査してから取引する必要がありますし、外貨口座を開設しておいたり、レートを考えたり…と、やることが多いです。
文化も仕事のやり方も違う「海外」との取引きです。通訳業務以外にも今までとは勝手の違う事務作業がたくさんあり、それを1から整えていく必要があります。
という事で、具体的な準備を見ていきましょう!
海外エージェントと取引を始めるための具体的な準備
海外エージェントと取引をするには、どんな準備が必要なのか?
ここからは、私の経験から必要な準備と体験談をご紹介していきます。
お金の受け取り方やレジュメの違いなど準備が大変?
準備とは何か?というと、海外との取引を行うための基盤作りです。
主に「お金の受け取り方法」と「レジュメ」の2つがポイントになります。
日本のエージェントとの取引に慣れていると、大変と感じるかもしれません。が、一度基盤を作ってしまえば、2度目以降はそれほど煩雑ではなくなります。
日本式はNG!海外仕様の英文レジュメ作成
レジュメは通訳者しての自分のスキルや経験をアピールできるように作成しましょう。ネイティブの方にレジュメをレビューしてもらい、フィードバックをもらうのもとても有効です。私自身はCorinne McKay氏のGetting Started as a Freelance Translatorというオンライン講座を受講し、その一環でレジュメとLinkedInプロフィールへのフィードバックをいただきました。
基本形となるレジュメはそのように準備してありますが、問い合わせのたびに、対象の専門分野での経験がわかりやすいように微調整を加えています。
フリーランス通訳者のレジュメは、企業の正社員募集の求人に応募するのとは大きく異なります。自分の写真を掲載してもいいし、自分のアピールしたいことを目立つように記載することもできます。
できれば英語ネイティブの通訳者にレビューしてもらうのがいいでしょう。
LinkedInやProz上のプロフィールを充実させる。業界団体のディレクトリ掲載も効果大
海外エージェントは、LinkedIn(ビジネスSNS)、Proz.com(通訳者・翻訳者向けポータルサイト)、日本会議通訳者協会(JACI)やAmerican Translators Associationのような業界団体のディレクトリで通訳者を探してコンタクトします。ですので、まずはこういった場所に自分の情報を掲載して、探したら出てくるようにしておくことが必要です。
LinkedInは無料で使えますが、ProzやATAは会費が必要。また、JACIでディレクトリーに掲載してもらうには年会費のほか「認定」を取る必要があり、一定の要件を満たす必要があります。どれも年に1度仕事が獲れれば元が取れるような金額(個人の感想です)なので、ぜひ掲載しましょう。
どれか一つ!と言われたら、まずはLinkedInのプロフィールを作成することをお勧めします。その次にJACIの認定を取るのがおすすめです。JACI経由では毎年数件問い合わせが来ます。
必要となる決済手段
多くの場合、報酬は銀行振込で支払われます。振込時のレートで構わないのであれば普段使っている円口座がそのまま使えますが、私の場合はメインバンクでドルやユーロの外貨口座も開設し、振込はまずそこにされて、自分の手作業で円に交換しています。
エージェントによってはPaypalで支払うところもあります。この場合、Paypalのビジネスアカウントが必要となりますので、前もって準備しておきましょう。また、Paypalでの送金には手数料がかかります。後述しますが、エージェントがPaypalを使っているかどうかは、事前の情報収集の段階で把握できればレート設定に反映できます。(手取りに影響するので結構重要です!)
外貨で受け取りたい場合はメインバンクの外貨口座開設と、念の為Paypalビジネスアカウント取得の2つを準備しておけば安心でしょう。
実際の案件受注から入金までのフロート注意点(私の体験談)
エージェントの検索サイト(後述します)で優良エージェントを探し、そこに「通訳の仕事があったらお願いします!」と一件一件アタックするやり方もありますが、私の場合は「案件ありきの問い合わせ」に対応する形で新規開拓をしています。
つまり、例えば、XX月YY日10時〜18時に東京で商談をするクライアントがある。分野はXX。対応できますか?レートはいくらですか?という問い合わせを積極的に受けていくイメージです。
逆に、「最近日英通訳の依頼が増えてきたので、登録通訳者を拡大しています。登録しませんか?」という、具体的な通訳案件を伴わない依頼は、私はお応えしないことが多いです。
レジュメという形で個人情報を共有することになるので、やはりここは一定の基準を設けているんです。
オファーメールへの即レス
というわけで、まずは海外エージェントから仕事の問い合わせが来ます。ここで注意しなければいけないのは、エージェントはおそらく複数の通訳者に同時に照会をしているという点です。日本だとそのような場合は「急ぎなので並行して手配をしています」と一言メールに書いてあるものなのですが、海外の場合は並行手配がデフォルトだと思ったほうがいいでしょう。
そのため、最初の照会に対するYesの返事はとにかくスピード勝負となります。ここで、案件に対する見積と自分のレジュメを添付し、返信をします。もう一点ポイントがあり、「XX日YY時(日本時間)までに返事をください」と明記するようにしています。基本的には先方もなるべく早めに回答をくれますが、自分のデッドラインを設けておくことで、回答がない場合の催促の目安ができて便利です。
【重要】取引先の支払い能力確認
先ほどYesの返事と書きましたが、Yesを返事をする前に、取引先がきちんと報酬を払ってくれる相手なのかどうか、は裏をとっておく必要があります。
そこで活躍するのがPayment PracticesとProz.comのBlue Boardです。
Payment Practicesは独立系のエージェント支払い能力口コミサイトです。Prozは前述した通訳・翻訳者向けの総合ポータルサイトです。私は両方に課金をして、エージェントの確認をしています。
先ほど、Paypalを支払に使っているエージェントの話が出ましたが、そのような情報も口コミサイトから拾うことができます。
こういったサイトに全く存在していないエージェントの場合、歴史が浅いだけなのかもしれませんが、わたしは取引を見送っています。
こういったサービスは有償ですが、安心・安全に取引をする上では必要な投資と言えるでしょう。
Confirmが出たら確定
エージェントから、確定しました(Confirm)というメッセージが来たら、案件は無事確定です。もしかしたらその前に「ありがとう!クライアントに確認をとりますね」という「仮押さえ」の返事が来る場合もあります。
PO (Purchase Order=発注書)の発行確認は必須
たとえConfirmと伝えられたとしても、本番までにかならず書面によるPOを発行してもらうようにしましょう。
日本のエージェントの場合は「依頼書」や「業務連絡表」のような文書が発行されるのが常ですが、海外エージェントの場合はPOが発行されます。発行されない場合は、「POを発行してください」と先方に言えば通じます。POを受け取ったら、必ず受領確認の連絡を入れましょう。
PO番号はエージェントが案件を管理するのに必要な番号であり、通訳者が請求書を発行するのにも必須となる情報です。
いざ本番(準備から当日の心構え)
送られた資料をもとに準備を進めます。私の印象ですが、資料は一度出たらその後から追加でさらに出ることは少ないように思います。
日本時間の昼間に開催される本番であれば、なにかトラブル等があっても自力で切り抜けるしかありません。
以上のような事情から、海外エージェントの案件を請けたいが懸念もある、という場合は、まずは自分がよくわかっている業界、種類の仕事から始めるといいと思います。
完了報告
業務が終了したら、完了を報告します。この点は日本のエージェントと同じです。気がついたことがあればフィードバックをしておきます。
請求プロセス/ポータルアップロードから入金確認まで
請求書を作成し、エージェントに送付します。エージェントが指定してきたメールアドレスに送る場合もあれば、エージェントがもっているベンダー・ポータルサイトにアップすることを求められることもあります。(エージェントによっては、登録から資料の受け渡し、請求に至るまですべてポータル化されていることも。)エージェントごとに請求書に含めるべき情報や書式が決まっているので、注意が必要です。
最後に、通訳料金が入金されます。確認できれば、業務完了です!
まとめ:海外エージェントと取引して、リスクに強い事業者に
改めて記事にしてみることで、海外エージェントとの取引ではいろいろと注意すべき点があることを実感しました。通訳者のタスクは増えますが、レートが高いことや、外貨獲得、日本のエージェントからは打診されないような業界にチャレンジすることができるというチャンスという意味で、大きな意義があると思います。
この記事が海外エージェントとの取引に関心がある方のご参考になれば幸いです。
